
進化し続ける原材料の世界
あらゆる機械工学や土木工学のプロジェクトにおいて、 材料を選択することは妥協を含む可能性を潜んでいます。 多数の機械的特性、費用、サステナビリティなど様々な要因がある中で、あらゆる要求を全て完璧に満たした材料は存在しません。今も尚、技術者と科学者はより良い材料を追求し続けています。
特定の産業や建設用途のため完璧な材料を見つけることは、複雑な過程になる可能性があります。アシュビー法、多基準分析、人工知能まで、意思決定過程における共通項は理想と現実のバランスになります。
この数十年で技術者が利用できる材料の選択肢は爆発的に増加しました。そのことは、妥協するという根本的な考えは変わりませんが、現実が理想に近づいていくということを意味します。
言い換えるなら、今までは諦めていたが、これからは理想に近い材料が選択できる可能性が高くなっているということです。
以下にて材料設計におけるイノベーションがどのように技術者にとっての選択肢と可能性を拡大させ続けているのかを考察します。
繊維強化複合材
航空、輸送、エネルギー、土木工学、機械製造など、ほぼすべての業界で新しい材料について検討する時、必然的に複合材料から始めます。複合材料は、構成要素の特性とは異なる特性をもたらす2つ以上の材料の任意の組み合わせである可能性があるため、材料というよりもその特性を指します。しかし、一般的に、ほとんどの業界では「複合材料」は重合体(ポリマー)と補強材の組み合わせを指します。
複合材は、概念としては新しいものではありません。不飽和ポリエステル樹脂の強化 にガラス繊維を使用した繊維強化複合材 は、1930年代に発明されましたものです。その後、数十年にわたり、炭素繊維やエポキシ樹脂の使用による革新を経て、この技術は軍事および海洋用途で使用されるようになりました。しかし、本当に変革的な影響をもたらしたのは1970年代です。
原油価格の高騰に伴い、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の高い比強度特性は航空産業にとって非常に魅力的なものになりました。そういった経済的な事情が航空機の重量低 減の必要性を増し、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の開発と商用化を前進させました。
多くの優れた特性
高い比強度特性は間違いなく複合材を含めた中で最も卓越したものとなりますが、その他にも多くの優れた特性も備えています。特性自体は使用される重合体(ポリマー)によって異なりますが、炭素繊維強化プラスチッ ク(CFRP)は原則として高い熱伝導率、電気伝導率、耐食性、引張り強さ、剛性を備えています。強化材料を変える事でこれらの特性は劇的に変化させることができます。例えば、 炭素の代わりにアラミド(堅牢な合成繊維) が使用された場合、生成される複合材はより柔軟で丈夫な非伝導性の材料になります。
この特性の多様性こそ、複合材がこれほど多くの産業と用途において使用され続けている理由です。近年の技術革新により、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は斜張橋のケーブルとしても使用され、その減衰特性は、その他産業機械の高速移動部品にも使用されています。
複合材の使用に対する主な障壁は、おおざっぱな言い方をすれば生産コストでした。その他、複数の材料の使用と様々な強化繊維の 配置は、構造的にも複雑化され、機械的な挙 動や摩耗などを予測することを困難にする可能性を含んでいました。安全で安心な締結の手法も多くの産業において課題となりました。 そのこともノルトロックXシリーズワッシャーなど、先進のボルト締結技術開発につながりました。それらの技術は、2つの重合体(ポリマー)をボルト締結するときに発生する可能性がある非回転緩みによる軸力損失を補填するための皿バネ機構を採用しています。
前途有望なバイオポリマーと複合材
現在、産業用途において使用されているほとんどの重合体(ポリマー)は依然として化石燃料に由来しているため、サステナビリティに関する課題があり、近年供給原料として再生可能な原料を使用するバイオポリマーに対する関心が急速に高まっています。
スウェーデン国立研究所のユニットマネージ ャのピーター・マンバーグ氏は、重合体(ポリマー)と複合材の環境影響に関する研究に取り組んでいます。
「私たちの目標は、軽量化用途に対して持続可能なソリューションを見つけることです。」と彼は言います。「最も広く使用されている炭素繊維とプラスチックの複合材は、化石燃料に由来しており、それらを再生可能な原料に置き換えたいと考えています。その為に今ある原料を組み合わせて新しい原料を開発します。」
マンバーグ氏のチームは、原料として林業や農業での残渣物(ざんさぶつ)に着目、特にある原料に関心を寄せました。「イネ科のク サヨシは湿地で成長します。そのため食物を生育させるために使用される農地を使用せずに栽培が可能です。これは重要な点であり、 複合材を開発するために様々な方法でクサヨ シを使用できました。」
最も簡単な方法は、強化繊維として茎と木の繊維のような材料を使用することです。ただ、用途が比較的限定されており、屋内での使用にのみ適応できるような機械的特性がありました。より範囲を広げる為、草の繊維を使用した新たな炭素繊維を開発することでした。
「スウェーデン国立研究所では長年にわたり繊維を開発し、炭化するために高分子のフェノール性化合物であるリグニンを使用することに着目してきました。」とマンバーグ氏は説明します。「バイオマスにおける2つの構成要素のセルロースとヘミセルロースを使用することでも繊維を製造できます。繊維を製造するために草のリグニンが使用され、その後、複雑な処理で炭化されます。」
「その成果として、炭素繊維が開発されました。現在最も強度の高い繊維で、高水準の用途における複合材に使用できる繊維です。」
脱化石燃料に基づいた材料
当然ながら、これは炭素繊維複合材における構成要素の一つです。しかし、マンバーグ 氏はクサヨシも重合体(ポリマー)生産のために使用できると期待しています。
「例えば、ビニール袋などのバイオ材料から作成された低品質なプラスチック素材は既に市場に出回っています。」とマンバーグ氏は 言います。「現在使用されているエポキシと熱硬化物を置き換えることで、自動車と航空用途において使用できるバイオプラスチックの開発を期待しています。それにはリグニンを分子レベルまで分解し、現在化石燃料に由来している材料と同一のものを製造する必要があります。」
炭素繊維を作成するためにリグニンを使用して実験している企業も現在ありますが、マンバーグ氏が説明しているものはまだ研究段階です。
「それがラボレベルで実施できる全てです。」 と彼は説明します。「現在、分子を抽出し、プラスチックと繊維を作製することは、化石燃料から作製するよりもコストがかかります。そのため、これらの製品が商用使用されるようになるには法制度と消費者の意欲を組み合わせることが必要です。」
最適化したソリューション
スウェーデン国立研究所は応用研究に重点的に取り組む研究所として長年にわたり、未来の工学材料と見なされてきたるナノ複合材の製造をより実現可能なものにするためのプロジェクトにも関与しています。
ナノ複合材とは、幅広い材料特性を含む可能性のある用語で、ナノ粒子によって諸要素を強化するあらゆる複合材料を構成することができます。これらは少なくとも 100ナノメートル(nm)よりも小さなサイズ の粒子です。このサイズの粒子を含ませると、材料の物理特性は大幅に変化します。
スウェーデン国立研究所の上級研究員の グァン・ゴン氏は、ナノ材料を使用して特定の産業プロジェクトに合わせて複合材料の特性の改良を担当しています。
「私たちは、最終消費者の希望に合わせて異なる特性を強化または改良することができるナノ材料の使用に関心を持っています。」
「例えば、『電気伝導率と熱伝導率を改善したい。』または、『はるかに高い熱伝導率が必要』など、顧客からの要望が寄せられます。」 または、「酸素また多くの他の物からの良好な障壁特性を備えた複合材が必要」などです。私たちは、それらの要件に基づいて卓越した品質を備えたものを開発するためにナノ材料を選別した後、ソリューションを考案、確認します。一般的に最終消費者が求めている重要な品質要求は何であるかと最初に確認します。」
厳しい要求と挑戦的なプロセス
驚くことではありませんが、簡単に検索すれば解決するようなことではありません。幅広い物理特性に加え、費用、エネ ルギー効率、生産効率などの要素があるため、ナノ材料、複合材、処理の適切な組み合わせを見つけることは常に複雑です。ゴン氏はこの適切な組み合わせの発見はナノ改良複合材が一般化するまでの唯一の障壁ではないと説明します。
「主な技術的障壁は、分散に関するものです。ナノ材料の卓越した特性を複合材料に変換するには、複合材内部で粒子を適切に分散させる必要があります。」とゴン氏 は言います。「様々な技法が使用できますが、特に繊維強化が存在している場合に、 希望するような分散状態を得ることは依然として非常に困難です。ナノ改良された複合材の産業への普及は、まだまだ確立された状態ではありません。」
「カーボンナノチューブやグラフェンなどの ナノ材料は非常に高価です。コストを下げる為には、ナノ材料の使用を非常に少量に抑える必要があるのですが、良好な分散を達成できないため、現段階では多くの量のナノ材料を使用することが必要となっています。」
ナノ材料の製造時、取り扱い時には、人体の健康と環境へ悪影響を及ぼす可能性があります。その為、厳密な安全規則に従うことも非常に重要です。
それでも、ゴン氏の部門は、航空、海運、 林業、エネルギー産業の企業を含む、多くの民間部門のパートナーと共にこの分野において順調にプロジェクトを遂行してきました。