実現に近付く「地上の太陽」
人類は60年以上、地球が未来永劫に亘って電力の恩恵を甘受し続けられるよう、クリーンで安全な電力源となり得る核融合技術の実現を願ってきた。それはSFの世界でしか実現できないのだろうか?答えはNOだ。
フランス南部の町、サン・ポール・レ・デュランスでは、ITER(イーター/International ThermonuclearExperimental Reactorの略)と呼ばれる世界最大の核融合技術研究プロジェクトが進行中だ(訳注:日本でもITERのサポートプロジェクトとして、JT-60と呼ばれる核融合研究施設が量子科学技術研究開発機構によって進められている)。35の国家が180億ユーロという途方もない巨費を投じて協業するこのプロジェクトは、核融合技術の商用利用を実現するための、一大国際プロジェクトである。2025年の実用化を目指すITERプロジェクトは、2050年までに核融合電力を世界中で普及させることを目標に掲げている。
ITERは、23,000トンに及ぶ世界最大のトカマク型核融合炉(核融合に必要なプラズマを生成し、閉じ込める超強力な磁場を発生させるドーナツ型の真空容器)だ。プラズマは1億5,000万℃、または太陽の温度の10倍に達すると、その電磁反発の性質を乗り越えて核融合反応を示す。核融合反応時に得られる中性子の膨大な運動エネルギーを、真空容器の壁面が熱エネルギーに変換することで初めて、利用可能なエネルギーとして取り出せることとなる。
ITERのトカマク型核融合炉は、史上最も複雑な構造を持つ機械だろう。10億点の部品と、それを構成する100億点のコンポーネントが世界中の国々で製造されているという。ノルトロックグループは、トカマク内の18本のトロイダルフィールド(TF)コイルを締結するソリューションとして、スーパーボルトをITERに供給している。1本当たりの高さ17メートル、幅9メートル、重量は荷物と乗客を満杯に詰め込んだボーイング747-300型機(310トン)に相当するこのトロイダルコイルは、プラズマを閉じ込めるための「檻」の役目を果たすものだ。超電導技術を利用したこのコイルを固定するボルト締結体は、-269℃の極低温に晒される。これはノルトロックグループの歴史においても単体のプロジェクトとしては過去最大のものだ。スーパーボルトの定期供給は、本年2018年の4月から始まっている。
「私たちはこの極低温環境に耐えるソリューションの開発に、10年の歳月を費やしました。」そう語るのは、ノルトロックスイスのプロダクション・ダイレクター兼サイトリーダーであるアドリアン・フォン・デイニケンだ。「ITERに関わるものは全て、通常の製品製造のレベルを超えたものばかりです。製品開発のタイムフレームもそうですが、ITERプロジェクトの方々はこの製品のメリットを人類全体の利益と考え、すぐに採用を決めてくれました。」
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FACTS:核融合技術
核融合は、太陽をはじめ全ての恒星を光り輝かせているエネルギーの源泉である。軽水素の原子核同士が衝突することで核融合反応を起こして重ヘリウム原子となるが、その際に膨大なエネルギーが放出される。このエネルギーが利用できるか否かはプラズマをいかに閉じ込めるかという点にかかっており、それこそが目下ITERプロジェクトの重要課題となっている。