Renovating Nuremberg’s metro – without affecting the timetable
地下鉄インフラの改修工事を数週間以内の工期で、しかも遅延や振替輸送による混乱を伴わずに行うなどということは、以前なら考えられないことでした。その革命的なコンクリート用ボルトがニュルンベルクで開発されるまでは。
ドイツ国内には鉄道会社が3社あり、そのうち2社は運転士のいない自動運転の鉄道となっています。中でもドイツ南部、バイエルン州ニュルンベルクの地下鉄はドイツ国内唯一の地下鉄であり、ヨーロッパでも最先端のインフラ設備をもっています。年間1億人以上の乗客を乗せ、1日に地球2周分の距離を走るこのニュルンベルク地下鉄は、この街に暮らす人々の誇りとなっています。
鉄道線路と路盤の間には、道床(どうしょう)と呼ばれる列車運行の荷重を分散させる役目を果たす層がありますが、その道床が40年に渡って使われ続けると、当然のことながら乗客の安全を確保するための補修工事が必要となって来ます。ニュルンベルク地下鉄では、線路下に敷設されたコンクリート製の縦枕木が、あちこちで経年劣化を起こしていたのです。
ニュルンベルク地下鉄の保守保全を担当するVAG社にとって、この地下鉄道床の補修工事は腰が引けてしまうような恐ろしい工事でした。ドイツの鉄道会社は、このようなコンクリート製の縦枕木の交換工事を行う際には、数週間に渡って工事区間の列車運行をストップするのが通例です。高圧の刃でコンクリートを裁断するウォータージェットを用いて縦枕木を除去して行くのですが、この作業は非常に時間がかかります。その上、地下鉄トンネル内には無数の高圧線が走っているため、これは極めて危険な工事でもあります。工事のために長期間トンネルを閉鎖する工事費や機会損失によるコストは甚大で、ダイヤの乱れは乗客にも大きくストレスを与えてしまいます。
しかし、救いの手は差し伸べられました。VAG社が工事計画を練り始めて間もなく、一つの革新的なソリューションが彼らの目に留まったのです。ニュルンベルクの地元企業である木工用ねじやコンクリート用ボルトのメーカーであるTOGEデュベル社が、既存のコンクリート製橋梁全体の耐久性を向上させる新たなコンセプトの製品で、鉄道イノベーション賞を受賞したのです。VAG社幹部の面々は、TOGE社の公開プレゼンテーションに大きく感銘を受け、すぐにこの技術を地下鉄道床に応用することを考えました。現在、この工事はベーレンシャンツェ駅・ゴステンホーフ駅・マクシミリアンストラッセ駅の最初の3駅区間で実施されており、2017年内には、1日に98,000人の乗降客数を誇るニュルンベルク地下鉄第二の駅であるプレル駅でも着工される計画となっています。
この工事は道床を完全に入れ替えてしまう代わりに、長さ36センチ、重量1キロのコンクリート用ボルトが道床全体の耐用年数を延ばすべく、列車の荷重を受け止める部材として使用されました。そのボルトは特許を取得した特殊なねじ山を備えており、コンクリートにねじ込まれると、穴の壁面にねじ山が切れ込んで行く構造になっています。ボルトに発生した締結力は、この切れ込んだねじ山から基礎に伝わってコンクリートを強力に固定するという仕組みです。
TOGE社のテクニカルダイレクターであり、このボルトの開発者の一人であるヴァルデマー・グンケル氏は、このプロジェクトがいかに有効なものかを以下のように解説してくれました。
「列車の運行停止期間を設けることなくコンクリート製の縦枕木を全て撤去し、新しいものと入れ替えるという計画は、現実的ではありませんでした。しかし、ここニュルンベルクで行われた工事では、我々のボルトは夜11時から翌4時までの間に行われ、始発までには全てが常と同じ状態へと復旧することができました。」
この作業時間中に列車運行をストップしなければならないレールはたった1本のみで、それも単線区間を設けて列車を逃がしてやることで対応できました。その間に経年劣化を起こして脆くなったコンクリートの縦枕木を裁断し、新たなものと入れ替える作業を行いました。結果として、全てのコンクリート製縦枕木は無事、地面に固定されました。このボルトはドリルのようにコンクリートにねじ込まれる必要があるため、正確に垂直方向に傾かないよう挿し込む必要があります。だからこそ、今回のボルトにはノルトロックXシリーズワッシャーが採用されました。Xシリーズの皿ばね形状は、通常のノルトロックワッシャー同様、ウェッジロッキング機構によって振動に起因する回転緩みを防止するだけでなく、ボルトの傾きも防ぎます。
ノルトロック製品が本工事で採用された背景には、ドイツ国営鉄道を運営するドイチバーン社とノルトロックの強力なパートナーシップがあります。ノルトロックワッシャーはドイチバーン社の規格品として採用され、長きに渡って同社のあらゆるボルト締結を支え続けています。
ノルトロックのプロジェクト・アカウントマネジャーであるヨヘン・シュエゼンバッハは、この革新的な地下鉄軌道のリノベーション工法に大きな可能性を見ています。「ドイツ国内には、同じようにリノベーションを必要とするトンネルが数多く残されていますが、運行ダイヤへの影響が事実上ゼロであるこの工法は、大いに注目すべきものです。コストの面でも、旧来のどの工法よりも優れています。」
リノベーション工事は現在、スケジュール通り遅延なく進行しています。着工当初の初期工事は、当初の予定より1週間も前倒しで完了しており、前述の3駅区間の工事も、旧来の工法では数か月を要する工事であるものの、僅か6週間での完工が見込まれています。
このコンクリート用ボルト自体は50年間の使用に耐えるよう設計されていますが、相手材となるコンクリートにはそれほどの耐用年数はありません。しかし、向こう数十年に渡って更なる補修・改修工事は必要なくなるのです。
このTOGE社の革新的なボルトを指して、バイエルン州の運輸内務大臣であるヨアヒム・ヘルマン氏は、このような表現で最大級の賛辞を送っています。「心臓の鼓動を取り戻させてくれるボルト」であると。これは、現在ドイツが12万本以上の高速道路橋、3万本以上の鉄道橋梁など、1o億ドル規模のインフラ改修工事の必要性に迫られている事実を指してのコメントです。
地下鉄インフラにおいてもそれは例外ではありません。ニュルンベルク地下鉄と同じように、ドイツ国内の地下鉄、そしてヨーロッパ全土の地下鉄の大部分は70年代に建設されており、一斉に補修工事の必要に迫られているのです。TOGE社のグンケル氏は、同社のコンクリート用ボルトの重要なアプリケーションに出会うことができたと考えています。「このプロジェクトは当社が飛躍し、更なる製品開発を推し進めてくれるきっかけを与えてくれたのだと思っています。」
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Facts: ノルトロックのソリューション
顧客:TOGE・デュベル社
エンドユーザー:VAG社(VERKEHRS-AKTIENGESELLSCHAFT NÜRNBERG/鉄道保守会社)
場所:ドイツ、ニュルンベルク
プロジェクト:地下鉄線路下の道床部リノベーション工事(列車運行不干渉にて実施)
ソリューション:特許取得済みの特殊なねじ山を備えたコンクリート用ボルトにて既存強化コンクリートを補強
ノルトロック製品:複合型ウェッジロッキングワッシャー「ノルトロックXシリーズ」幅広タイプ(NLX24sp)
得られたメリット:
- 多様な使用環境下での信頼性
- 列車運行による変動荷重下での安全性
- 問題発生時に迅速対応を可能とする強固なパートナーシップ