【エキスパート】締結部材を再利用する場合の注意点
Q: ボルトを再利用する場合、締結軸力にはどんな影響がありますか?
A: ボルト・ナットの再利用は、ごく一般的に行われています。ですが、再利用するにあたり、
締結部の軸力にどのような変化が起こるのか、どのような点に注意すべきかは一般的に
知られていないように感じます。
ボルト・ナットを締め込む際には、「雄ねじ側と雌ねじ側両側のねじ山(勘合面)」、
そして「ボルトヘッド・ナットと被締結材表面の間」で摩擦で摩耗が生じます。そのため、
これらの摩擦が生じる面には摩耗が発生することとなります。
摩耗はどのようなボルト締結体でも発生するものですが、その摩耗の「程度」を左右する
大きな要素が摩擦係数の低減および安定化、つまり「潤滑油」です。潤滑油を使用せずに
取り付ける場合、摩耗の度合いはどうしても大きくなってしまいます。締結部材を再利用し、
既定のトルクで締め込んだ場合、そのトルクから軸力へ転化される割合(詳しくはこちら)に
摩耗の影響によって変化が生じ、狙い通りの軸力を得られないケースが出てきます。摩耗に
よって表面が荒れてしまうことで摩擦係数が上がってしまい、得られるトルクから軸力への
転化率が下がってしまう(軸力が得られにくくなる)ことが多くあります。
つまり同じトルクで締め付けても、軸力不足の状態になってしまうのです。また、各ボルト・
ナットごとに起こる摩耗の度合いは当然ながらコントロールはできません。そのため得られる
軸力にばらつきが生じてしまいます。いかに設計者が軸力を指定しても、これらの影響により
問題が発生する可能性があるのです。更にこれらの結果、締結部にかかる外力が得られた軸力を
超えてしまった場合、緩みの発生に繋がります。
一方で、締結部材に潤滑油を使用した場合、摩擦係数を低減・安定化させることができるため、
摩耗度合いを最低限に抑えることができ、トルクから軸力への転化効率が改善され、得られる軸力
の精度が向上します。即ち締結精度が向上します。下図は、ドライ状態(潤滑油なし)と潤滑状態
でのトルクから軸力への転化率の差を示すグラフです。
オレンジの線が示すドライ状態の場合、軸力が極めて不規則にバラついてしまうのに対し、
潤滑剤を使用した青の線はバラつきの幅が明白に狭くなり、安定しています。
結論として、ボルト・ナット等締結部材の再利用を行う場合は潤滑油を使用することによる
摩耗度合いの低減策を図られることをおすすめします。潤滑油を使用すると緩みの発生に
繋がる、という懸念を抱く方もいますが、そもそも締結軸力が締結体にかかる外力に負けない
限りは緩みは発生しません。
とは言え実際に想定以上の振動や衝撃などの外力が発生し、緩みが発生する可能性も勿論あり
ます。ノルトロックワッシャーは、他のあらゆる緩み止め製品と違い、摩擦を利用した緩み止め
ではないため、潤滑油を使用した締結体においてもドライ状態と変わらない緩み止め効果が得
られます。そのため、私たちは潤滑油を使用するメリットの大きさをお客様にお伝えしている
のです。
潤滑油の使用に当たっては、潤滑油メーカーが示す用法は必ず守り、摩擦係数が低減されること
を考慮したトルク算出が必要となります。
ご不明点や更に詳しい情報をお求めの方は、ノルトロックジャパンまでお問合せください。